大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)25873号 判決

原告 株式会社共同債権買取機構

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 今井和男

同 大越徹

同 吉澤敏行

同 伊藤治

被告 Y1

被告 Y2

被告 Y3

被告 Y4

被告 Y5

被告 Y6

右六名訴訟代理人弁護士 本多藤男

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、金八億七三九九万一一円並びに内金五九九九万八五〇〇円に対する平成九年三月一四日から支払済まで及び内金四億九二七六万六七一八円に対する平成九年八月七日から支払済までそれぞれ年一四%の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、訴外株式会社富士銀行(以下「富士銀行」という)が被告らに貸し付けた債権(借主以外の被告らがそれぞれ保証)を譲り受けた原告が、被告らに対し貸付金の返還を求めたところ、被告らは物的有限責任の抗弁等を主張し、その支払を拒絶した事案である。

一  争いのない事実等(当事者間に争いのない事実については特にその旨を断らない。また、証拠により認定した事実については、認定に供した主要な証拠を末尾に掲記した。)

1  銀行取引約定等

(一) 富士銀行は、平成元年三月七日、被告らとの間で、銀行取引約定を締結したが、そのなかで、相当の事由ある場合には利息が変更されること、損害金の利率は年一四%(年三六五日日割計算)とすることを合意した。

(二) 被告Y2(以下「被告Y2」という)は、平成元年三月七日、富士銀行に対し、被告Y1(以下「被告Y1」という)、被告Y4(以下「被告Y4」という)、被告Y3(以下「被告Y3」という)、被告Y5(以下「被告Y5」という)及び被告Y6(以下「被告Y6」という)がそれぞれ富士銀行に対して現在及び将来負担する一切の債務について、連帯保証する旨約した。

(三) 前記(二)と同様に、被告Y1、同Y4、同Y3、同Y5、同Y6は、平成元年三月七日、富士銀行に対し、各人が他の全被告の富士銀行に対する一切の主たる債務について、連帯保証する旨約した(以下「本件保証契約」と総称する)。

2  金銭消費貸借契約

富士銀行は、被告らとの間で、次のとおりの各金銭消費貸借契約を締結した。

(一) 被告Y2に対する主たる債権

(1) 手形貸付(以下「本件金消契約1(1)」という)

契約締結日 平成元年三月七日

貸付金額 金一億円

弁済期日 平成二年三月七日

利息 年六・三七五%

(年三六五日日割計算)

(2) 手形貸付(以下「本件金消契約1(2)」という)

契約締結日 平成三年一月三〇日

貸付金額 金一〇〇〇万円

弁済期日 平成三年一〇月二三日

利息 年五・七五〇%

(年三六五日日割計算)

(3) 手形貸付(以下「本件金消契約1(3)」という)

契約締結日 平成三年四月一一日

貸付金額 金二〇〇〇万円

弁済期日 平成三年一〇月二三日

利息 年五・七五〇%

(年三六五日日割計算)

(4) 手形貸付(以下「本件金消契約1(4)」という)

契約締結日 平成二年一〇月二三日

貸付金額 金三〇〇〇万円

弁済期日 平成三年一〇月二三日

利息 年五・七五〇%

(年三六五日日割計算)

(二) 被告Y1に対する主たる債権

手形貸付(以下「本件金消契約2」という)

契約締結日 平成元年三月七日

貸付金額 金一億円

弁済期日 平成二年三月七日

利息 年六・三七五%

(年三六五日日割計算)

(三) 被告Y4に対する主たる債権

手形貸付(以下「本件金消契約3」という)

契約締結日 平成元年三月七日

貸付金額 金一億円

弁済期日 平成二年三月七日

利息 年六・三七五%

(年三六五日日割計算)

(四) 被告Y3に対する主たる債権

手形貸付(以下「本件金消契約4」という)

契約締結日 平成元年三月七日

貸付金額 金一億円

弁済期日 平成二年三月七日

利息 年六・三七五%

(年三六五日日割計算)

(五) 被告Y5に対する主たる債権

手形貸付(以下「本件金消契約5」という)

契約締結日 平成元年三月七日

貸付金額 金一億円

弁済期日 平成二年三月七日

利息 年六・三七五%

(年三六五日日割計算)

(六) 被告Y6に対する主たる債権

手形貸付(以下「本件金消契約6」という、甲一六)

契約締結日 平成元年三月七日

貸付金額 金一億円

弁済期日 平成二年三月七日

利息 年六・三七五%

(年三六五日日割計算)

3  弁済期日の延期

(一)(1) 被告Y2は、本件金消契約1(1)に基づく債務につき、数次の手形書換を行い、平成四年三月一〇日には最後の手形書換を行ったが、それに伴い富士銀行は、本件金消契約1(1)の弁済期日を平成四年九月六日と定めた。

(2) 被告Y2は、本件金消契約1(2)ないし(4)に基づく各債務につき数次の手形書換を行い、平成四年四月三〇日には最後の手形書換を行ったが、それに伴い富士銀行は、本件金消契約1(2)ないし(4)の各弁済期をそれぞれ平成四年一〇月二三日と定めた。

(3) さらに、富士銀行は、被告Y2に対し、本件金消契約1(1)ないし(4)の各弁済期を、平成六年一一月三〇日まで猶予した。

(二) 被告Y1、同Y4、同Y3、同Y5、同Y6は、本件金消契約2ないし6に基づく各自の主たる債務につき、それぞれ数次の手形書換を行い、平成四年三月一〇日には最後の手形書換を行い、それに伴い富士銀行は、本件金消契約2ないし6の各弁済期日を平成四年九月六日と定めた。さらに、富士銀行は、被告Y2を除く五名の被告らに対し、本件金消契約2ないし6の各弁済期を、平成六年一一月三〇日までそれぞれ猶予した。

4  債権譲渡

(一) 被告らは、平成六年一一月一日、本件金消契約1(1)ないし(4)及び同2ないし6(これをまとめて、以下「本件貸付金」又は「本件貸付」という)に基づく各自の主たる債権が、富士銀行から原告に対して譲渡されることにつき、予め承諾した。

(二) 富士銀行は、平成七年三月三〇日、原告に対して、本件貸付金に基づく被告らに対する全ての債権を譲渡した(〈証拠省略〉、弁論の全趣旨)。

5  債務不履行

被告らは、平成六年一一月三〇日を経過するも、本件貸付金の支払義務を履行しなかった(弁論の全趣旨)。

二  争点

被告らは、支払を拒絶するため、各種の抗弁等を主張しているが、これらの抗弁等が認められるか。

(被告らの抗弁等の要旨)

1 物的有限責任

被告らはBの相続人であるが、同人の死亡により代償相続のために要する資金及び相続税の支払資金として、富士銀行から本件貸付を受けた。このため、被告らがBから共同相続した東五反田の土地及び建物(以下「本件物件」という)を売却して全額を返済する条件で借り受けた。したがって、被告らは、本件物件の限度で責任を負担すれば足りるところ、被告らは、本件物件を売却し、売却代金全額を本件貸付金の弁済に充てたので、もはや、被告らには本件貸付金については何らの支払義務もない。

2 信義則違反

(一) 被告らは、富士銀行から、前記1のとおり本件物件を売却して本件貸付金全額を返還する条件で融資を受けた。しかも、被告らは、本件物件で全額を返済できるものと信じて融資を受けたものであるから、富士銀行は、金融の専門家として、被告らに対し、万一本件物件を処分しても債務全額を返済できなかった場合は、他の資産・収入から返済してもらう旨、説明する義務があった。しかるに、富士銀行は、被告らに対し、その説明をしなかっただけでなく、かえって本件物件で十二分に完済できると説明した。したがって、富士銀行から本件貸付金の譲渡を受けた原告も、信義則上、被告らに対し、本件貸付金の支払を求めることはできない。

(二) 富士銀行(担当 目黒支店長C)は、被告らに対し、本件物件の売却先として、インドネシア大使館を紹介した。富士銀行は、被告らに対し、インドネシア大使館との交渉結果が出るまでは、他へ本件物件を売却しないように要請してきた。このため、被告らは、他からの購入の話を断ってきた。ところが、インドネシア大使館への売却の話は一一か月後に破談となった。このため、被告らは、本件物件を、他へ高額で売却する機会を失ってしまった。以上のとおり、本件物件の価格が下落し、本件貸付金の全額が回収できなかったのは富士銀行にその原因があるのであるから、その未回収額の返済を被告らに求めることは信義・公平に反する。

3 期限の猶予と利息のみの支払約束

富士銀行は、本件貸付の際、被告らに対し、本件貸付金の弁済期は一応のものであり、約定利息のみを支払えばよく、遅延損害金を支払う必要性はない旨約した。

4 原告へ本件貸付金を移管するに際しての合意(利息・損害金の免除)

富士銀行(担当 目黒支店D課長)は、平成六年一一月一日ころ、被告Y2、同Y3に対し、本件貸付金を原告に移管(譲渡)するに当たり、次のことを約した。

(一) 富士銀行は、原告に対し、本件貸付金を本件物件の査定価格四億二〇〇〇万円で譲渡する。そこで、富士銀行は、本件貸付金の債権額と査定価格四億二〇〇〇万円との差額は銀行処理として損金計上する。債務の求償権は残るが、個人の生活ができないような返済は求めない。被告らの返済の意思が示されればよい。

(二) 被告らは、原告に移管後は、利息、損害金を支払わなくてよい。

5 分割返済の合意

富士銀行(担当 目黒支店E課長)は、平成八年九月二七日、被告らとの間で、本件貸付金の返済について、毎月一七万宛分割して支払えばよい旨合意した。

6 不執行の合意

被告らは、その所有する箱根町仙石原の土地(以下「箱根の旅館用地」という)を、旅館を経営している株式会社俵石閣(代表取締役 被告Y2)に賃貸している。富士銀行(担当 目黒支店E課長)は、平成八年四月、被告らに対し、本件物件を売却するに当たり、箱根の旅館用地については強制執行しない旨約した。

7 本件貸付金の適用利率(予備的主張)

原告が富士銀行から譲り受けた本件貸付金の利率は、本件金消契約1(1)及び同2ないし6がそれぞれ年六・三七五%、本件金消契約1(2)ないし(4)がそれぞれ年五・七五%である。したがって、被告らはこれを越える利率の利息、損害金を支払う義務はない。

(原告の主張)

被告の抗弁1ないし7はいずれも否認する。

第三争点に対する判断

一  請求原因について

被告らは前記第二、二のとおり各種の抗弁等を主張する、そこで、被告らの抗弁等を検討するに先立ち、原告の被告らに対する現段階での本件貸付金の債権額について検討する(請求原因事実)。

1  前記争いのない事実等1ないし5及び弁論の全趣旨によれば、原告は被告らに対し、本件貸付金を有しているところ、平成六年一二月一日以降履行遅滞の状態にあること(争いのない事実等5)、約定損害金の率は年一四%であること(同1(一))、被告らは平成六年一二月一日以降、別紙利息・損害金一覧表の内入日欄の日に内入額欄のとおりの金員の弁済をしたにとどまり、それ以外の弁済をしていないこと(弁論の全趣旨)が認められる。そうだとすると、被告らの抗弁7(本件貸付金の適用利率)は理由がないことが明らかである(なお付言するに、被告らは乙八号証を提出し、本件貸付金の利息、損害金の利率は、契約締結当初の約定利率のままであると主張しているとも受け取れるが、証人Fの証言によれば、右文書は、行内資料で、譲渡したときの利率で未収利息を計算した場合にはいくらかという額を試算したにすぎないことが認められ、右文書に損害金の記載がないことをもって、損害金の利率も、当初の約定利率と同一であるということは困難である。)。

2  前記争いのない事実等に前記1の結果を併せ考慮すると、原告の被告らに対する本件貸付金の各残債権額は次のとおりとなる(なお残元金額については当事者間に争いがない)。

(一)(1) 本件金消契約1(1)(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表1(一)〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金八一八八万九四五三円

② 利息 金一二七九万九五二〇円

③ 確定損害金 金三六三七万一八一四円

(2) 本件金消契約1(2)(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表1(二)〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金九九九万九五〇〇円

② 利息 金一一〇万九八六三円

③ 確定損害金 金三一九万八九〇三円

(3) 本件金消契約1(3)(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表1(三)〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金一九九九万九五〇〇円

② 利息 金二二六万九七二六円

③ 確定損害金 金六三九万七八〇七円

(4) 本件金消契約1(4)(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表1(四)〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金二九九九万九五〇〇円

② 利息 金三三九万九五八九円

③ 確定損害金 金九五九万六七一一円

(二) 本件金消契約2(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表2〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金八二一五万九四五三円

② 利息 金一二七九万九五二〇円

③ 確定損害金 金三六四一万六六五二円

(三) 本件金消契約3(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表3〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金八二一七万九四五三円

② 利息 金一二七九万九五二〇円

③ 確定損害金 金三六四一万六六五二円

(四) 本件金消契約4(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表4〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金八二一七万九四五三円

② 利息 金一二七九万九五二〇円

③ 確定損害金 金三六四一万六六五二円

(五) 本件金消契約5(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表5〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金八二一七万九四五三円

② 利息 金一二七九万九五二〇円

③ 確定損害金 金三六四一万六六五二円

(六) 本件金消契約6(その詳細は、別紙利息・損害金一覧表6〈省略〉のとおりである)

① 残元金 金八二一七万九四五三円

② 利息 金一二七九万九五二〇円

③ 確定損害金 金三六四一万六六五二円

(七) 小括

以上(一)ないし(六)によれば、原告は、被告らに対して、本件各金消契約及び本件保証契約に基づき、連帯して、残元金、利息及び確定損害金の合計金八億七三九九万一一円並びに残元金五九九九万八五〇〇円に対する平成九年三月一四日から支払済まで及び残元金四億九二七六万六七一八円に対する平成九年八月七日から支払済までそれぞれ年一四%の割合による各遅延損害金の支払請求権を有しているということになる。

二  抗弁について

以下、被告らの抗弁等(但し、前記一1で既に検討した抗弁7を除く)について、順次判断する。

1  抗弁1(物的有限責任)について

被告らは、本件物件の限度で責任を負担すれば足りると主張する。確かに、〈証拠省略〉によれば、(一)被告らは、B死亡による相続税等を支払うために、富士銀行から本件貸付(六億円)を受けたこと、(二)本件貸付金の支払を担保するため、富士銀行のために、本件物件に根抵当権を設定したことが認められる。

しかし、前記争いのない事実等に〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨を併せ考慮すると、(一)被告らは、本件貸付金の支払を担保するために、本件物件に根抵当権を設定するだけでなく、個人保証までしていること、(二)富士銀行は、平成五年七月以降、本件物件の担保価値が本件貸付金額を下回るや、被告らに対し、追加担保として箱根の旅館用地を提供するように要求したこと、(三)右要求に対し、被告Y2、同Y3は、富士銀行に対し、自分の持分については提供する意思があることを明らかにしたこと、(四)被告らは、本件物件を売却して一部弁済した後である、平成九年六月一九日に五一万二三八八円、同年八月六日に一七万円を本件貸付金に対する弁済の一部として支払っていること、(五)被告らの主張を証する書類は作成されていないことが認められる。

以上の認定事実、殊に、富士銀行、被告らは、いずれも、本件物件売却後も、本件貸付金の残債権が存在することを前提に、その支払を巡って各種の交渉を重ねていることに鑑みると、抗弁1は到底認められず、右判断を左右するに足りる証拠は存在しない。

2(一)  抗弁2(一)(信義則違反その一)について

(1) 被告らの抗弁2(一)は、本件貸付が物的有限責任であることを根拠にその主張を展開しており、前記1のとおり物的有限責任の主張が認められない本件にあっては、抗弁2(一)は前提の基礎を欠き、失当というべきである。

(2) また、次のようなこともいえる。すなわち、

証拠(証人F)及び弁論の全趣旨によれば、本件物件の価格は、平成二年当時約一六億円もしており、富士銀行は、被告らに対し、本件物件で本件貸付金を支払えない場合について説明していなかったことが推認できる。しかし、他方、前記争いのない事実等及び〈証拠省略〉によれば、(一)富士銀行は被告らとの間で本件貸付に当たり銀行取引約定を結んでいるが、右約定書の四条には、「債権保全を必要とする相当の事由が生じたときは、請求によって、直ちに貴行の承認する担保もしくは増担保を差し入れ、、または保証人をたてもしくはこれを追加します」との記載があること、(二)被告らはそれぞれ本件貸付金債務を連帯保証していることが認められる。

右認定事実に、本件貸付当時、本件物件の価格が本件貸付金額を上回っていたことをも考慮すると、富士銀行に被告ら主張のとおりの説明義務違反があったとすることはできず、この点の被告らの抗弁2(一)を採用することはできない。

(3) 右(1)、(2)のとおり、被告らの抗弁2(一)は、いずれの観点からも理由がないというほかない。

(二)  抗弁2(二)(信義則違反その二)について

(1) 被告らの主張の要旨は、富士銀行のせいで、被告らは本件物件を高額に売却できる機会を逸したというものである。

(2) 本件全証拠を検討するも、被告らが本件物件を売却するために、積極的に買受人を探した形跡は認められないし、インドネシア大使館に売却する話が出ていた期間中に、他に高額で買い受けの申し出をしてきた者がいたとの証拠は存在しないし、そのような買受申出人がいたにもかかわらず富士銀行が被告らに対し右買受申出人に売却をしないように働きかけた形跡も認められない。しかも、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、インドネシア大使館への売却交渉が交渉開始から一一か月後に破談になったのは、価格、容積率(九階建の建物が建たない)、面積(坪数が大きい)、地形(袋地に近い)、相手方が特殊であったことに原因があったことが認められ、破談について、富士銀行の責任を問うことは困難である。

(3) 以上に照らせば、被告らの抗弁2(二)が理由がないことは明らかである。

3  抗弁3(期限の猶予と利息のみの支払約束)について

前記争いのない事実等及び〈証拠省略〉によれば、(一)本件貸付金の支払期限は一年後と明確に定められていたこと、(二)富士銀行と被告らが本件貸付に当たり取り交わした銀行取引約定書には、損害金の利率として年一四%が明記されていること、(三)被告らが富士銀行に差し入れた債権譲渡に係る承諾書には「貴行からの借入金(延滞利息、損害金等があればこれを含む)」と明記されていること、(四)被告主張の事実を証する書類は作成されていないことが認められる。

右認定事実によれば、被告らの抗弁3が理由がないことは明らかである。

4  抗弁4(原告へ本件貸付金を移管するに際しての合意)について

(一) 被告らは、原告へ本件貸付金を移管するに当たり、富士銀行と被告らとの間で、「富士銀行は、原告に対し、本件貸付金を本件物件の査定価格四億二〇〇〇万円で譲渡する。そこで、富士銀行は、本件貸付金の債権額と査定価格四億二〇〇〇万円との差額は銀行処理として損金計上する。債務の求償権は残るが、個人の生活ができないような返済は求めない。返済の意思が示されればよい。」との合意が成立したと主張する。右主張が、本訴請求に対する抗弁として機能するのか否かは多分に疑義が残る。なぜなら、損金処理をしても、被告らに対する債権は残るとの主張だからである。その点は、さておいても、本件全証拠を検討するも、被告ら主張にかかる事実を認めるに足りる証拠は存在しないし、かえって、〈証拠省略〉によれば、Dはこのような事実の存在を否定しており、これを覆すに足りるだけの証拠もない。

よって、この点の、被告らの主張は理由がない。

(二) 続いて、富士銀行は、被告らに対し、原告に移管後は、利息、損害金を支払わなくてよい旨約したと主張する。

被告らの右主張は、富士銀行において譲渡後の債権者である原告の行為を拘束するものであり、譲渡人がこのような合意をすることは不自然であり、被告らの右主張は、前記3のとおり債権譲渡に係る承諾書の記載とも反する。金融機関が利息、損害金まで免除することは異例であり、そのためには、これを説明できる合理的理由、証拠等が必要なところ、そのようなものは何ら存在しない(なお、乙八号証をもって、損害金免除の証拠とすることができないことは、前記一1で判断したとおりである)。

よって、被告らの抗弁4も理由がないことになる。

5  抗弁5(分割弁済の合意)について

(一) 被告らは、本件貸付金について毎月一七万円宛分割して支払う合意が成立したと主張する。被告らが根拠とするのは、富士銀行作成の乙三号証である。しかし、〈証拠省略〉によれば、(一)乙三号証は、本件物件売却の直前ころ、富士銀行から被告Y2に対し、履行してもらいたい事項を記載した連絡メモであること、(二)乙三号証には、被告らから富士銀行に対し、本件物件売却後の返済計画案として月額一七万円の案が提示されたこと、(三)富士銀行から被告らに対し同人らの収入証明書を提出するようにとの記載がされているものの、返済計画についての合意が成立したの記載はないことが認められる。

以上によれば、乙三号証に基づき、被告らから富士銀行に対し分割弁済案の提示があったことまでは認められるものの、それ以上のこと、すなわち、分割弁済の合意が成立したとまでは認めることができない。

(二) また、被告らは、富士銀行が、被告らから、平成九年六月一九日に五一万二三八八円、同年八月六日に一七万円を受領したことをもって、前記分割弁済の合意が成立した証左であるとも主張しているようにも思われる。しかし、〈証拠省略〉によれば、富士銀行が被告らからの支払を拒絶する理由はなく、富士銀行が被告らからの弁済額を本件貸付金の内入れ弁済に充当することには合理性があり、右受領をもって分割弁済の合意があったと評価することはできない。

(三) また、平成九年二月当時で、本件貸付残額は七億円を超える額であり、毎月一七万円の支払では完済まで数百年もかかること、他方、被告Y2の平成七年度の年収は一二〇六万円余であること(乙二の2)、平成五年七月当時、被告らの所有する箱根の旅館用地は時価約二〇億円であり、担保設定額は約一二億円にすぎずこれを控除しても十分担保価値に余剰があること(〈証拠省略〉)が認められ、このような事情をも考慮すると、金融機関が、わずか月額一七万円の分割弁済を甘受するとは到底思えない。

(四) 以上の検討から、被告らの抗弁5は理由がないことが明らかである。

6  抗弁6(不執行の合意)について

(一) 不執行の合意は、本訴請求においては抗弁とはいえず、単なる事情である。なぜなら、不執行の合意は、執行の段階で、債権者が、不執行の合意である資産に執行をしようとする段階で、これに対し、請求異議等を起こせば足りるからである。しかし、被告らがこの点をも争点にしているので、この点についても言及しておく。

(二) 〈証拠省略〉によれば、(一)富士銀行は被告らに対し、一貫して箱根の旅館用地を追加担保として提供するよう要求していたこと、(二)右要求に応じない被告らに対し、原告は、箱根の旅館用地に仮差押の申立てをし、これが認められていること、(三)不執行の合意を証する書類は作成されていないことが認められる。

(三) 前記(二)によれば、被告らの抗弁6は理由がないというべきであり、これに反する被告Y2本人の供述は前記(二)の事実に照らし採用することができず、他に右判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

7  小括

以上1ないし6によれば、被告らの主張する抗弁1ないし6はいずれも理由がない。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由があるので、これを認容することにする。

(裁判官 難波孝一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例